インターネットで問題となっているワタミタクショク㈱の宅配スタッフ問題について整理してみました。

　まずは，宅配スタッフは運送事業の届出が必要性なのか。

　そして，宅配スタッフは労働者なのか自営業者なのか。

　最後に，事故が起こった場合，労働災害保険の適用があるのか。

問題点１　　宅配スタッフの運送事業届出の必要性有無

　インターネットの各所で論議されているように、宅配スタッフが車持込みで、ワタミタクショクから｢弁当の配達｣を委託されるのであれば，貨物自動車運送事業法第２条４により、他人の需要に応じ有償で自動車（３輪以上の軽及び２輪）を使用して貨物を輸送する事業に該当すると思われます。

　そうすると，宅配スタッフは「同法第３６条による届出」をしないと「同法第７６条により100万円以下の罰金」となります。この届出問題をクリアーするには，「届出をする」か，「他人の需要に応じ有償で貨物輸送しないこと」が必要です。

　宅配スタッフが，言わばＦＣ形式で，弁当をワタミタクショクから購入し，配達するという事業形態であれば、クリアーできます。すなわち，自分の商品（仕入れた弁当）を自分の顧客に宅配するという事業でなければいけません。この場合，宅配スタッフは宅配弁当事業を営むこととなり，当然ながら，その売上高は顧客・宅配先からの集金額，経費はワタミタクショクに支払う弁当購入費，販売手数料（各種ノウハウ使用料）とその他諸経費（車両関係諸経費など）で，残りが事業主所得ということになります。

　しかし，募集案内では，業務委託で報酬は完全出来高制とあります。インターネットの各種書込み情報でみると，考えられる委託業務は，「営業地域の新規顧客開拓」，「弁当代金集金」，「弁当配送・空箱回収」です。ワタミタクショクから弁当を購入したのに，その代金回収・配達業務等をワタミタクショクから受託するのは矛盾してきます。

　この募集案内の流れでいくと，宅配スタッフはワタミタクショクの求めに応じて弁当を配送するのであり，「他人の需要に応じ有償で貨物輸送」にあたり，宅配スタッフは業の届出が必要です。

　宅配スタッフが無届営業であれば，無届・宅配スタッフとそれをチェックせず使用するワタミタクショク㈱のコンプライアンスが問われそうです。

問題点２　　業務委託か労働者なのか

　宅配スタッフが労働者であれば，交通事故等は労災適用となり，治療費や休業補償がされます。
　また，有給休暇も発生してきますし，最低賃金もクリアーする必要があります。労働時間によっては，他の社会保険の問題も出てきますし，契約の中途解約も問題となってきます。

　宅配スタッフが労働基準法上の「労働者」となるかどうかは，①仕事の依頼，業務の指示等に対する諾否の事由の有無，②業務の内容および遂行方法に対する指揮命令の有無，③勤務場所・時間についての指定・管理の有無など指揮監督関係の有無の実態などを主にみて判断されます。

　次のサイトが参考になります。

　　　・個人請負型就業者に関する裁判例について

　　　・横浜南労基署長（旭紙業）事件　最高裁Ｈ8.11.28

　今後は，業務中に事故にあった場合，業務内容の実態によっては、労災申請が認められるという事例もあるかもしれません。

　一応，宅配業務が適正な（届出業者への）業務委託だとすると，報酬例で見ると10軒／時間（宅配先のお話の相手もして，移動時間もかねて，６分／１軒で納まるか。）で，145円／個，1，450円／時間となっています。車両関係の経費（減価償却，タイヤ，消耗品費，保険料など）を考えると１軒回るのにお客が点在しているや、配達業務以外の業務を強いられ１軒平均１０分以上かかるようだと採算は苦しくなる（労働者の場合の最低賃金を下回る虞有り。）ようです。

　なお，宅配スタッフが労働基準法上の「労働者」と認められない場合でも，労組法上の「労働者」となり，労働組合を結成し，報酬についてワタミタクショクと団体交渉できる可能性もあると思われます。

問題３　労災に加入できるか

　宅配スタッフが労働基準法上の「労働者」と認められれば，問題ありませんが，そうでない場合、労災適用とすることができるでしょうか。
　車持込運転手（一人親方）は労災に特別加入できるので、制度的には可能です。

　特別加入の労働局長承認を得た貨物運送業者の団体に，一人親方として加入することになります。

　現在宅配業者の団体は，全国赤帽労災防止組合中国地区本部のみのようなので，ここに加入するか新たにワタミタクショクが支援して，団体を作って申請すれば労災適用も可能です。